もう寝るよ。

やっぱりそうだったんだ。とうとう本音がその口から出ちゃったね。

「俺の立場はどうなるんだ」

みんなのためとか偉そうなこと言ってたけど、結局、あんたの頭の中にあったのはずーっとそのことだけだったんだ。

でも大丈夫。みんなもウスウス感じていたから。
あんたがそういう人間だって。

でも、その言葉を聞いたとき、不思議とホッとしたのも事実だよ。
「もしかしたら腹を立てている俺のほうが悪いのか?」という疑問が深夜にふと頭をよぎって眠れなくなるときもあったけど、どうやらそれは僕の勘違いだったようだ。



一度しか会ったことはなかった、ある人の訃報を聞いた。

普段は誰が死のうがたいして驚かない質なのだが、その訃報を知って、あの山奥で出会った無数の埃まみれのレコードの折り重なり、蓄音機のハンドルを廻す感覚、鉄のレコード針のひんやりとした感触がよみがえってきた。

情景は強烈に浮かんでくるのだが、不思議と本人の姿がはっきりと浮かび上がってこない。

もちろんそれは、一度しか、実際には数分しか会っていない人だから記憶にないだけなのかもしれない。

でも、それは彼があの無数のモノたちの所有者ですらなく、モノ達を持っているどころかモノ達の仲間で、だからあのとき僕らを案内したり話をしてくれたのは(一応は人間に見えたけど)モノ達の世界の仲間だったからかもしれないなんてトボケたことを、ふと考えてしまうのであった。