まったく偶然に思いつきで行き当たりばったりにホテル日航でランチバイキングなるものに飛び込んでみた。市内に出てきたときにお昼ご飯を食べる店というものがわれわれの中で決まっているのだが、あいにくその中華料理屋が定休日だったのだ。

サービス期間で通常大人2200円がいまなら1500円。これは乗っておくしかあるまい。この昼時シティを駆け抜けるビッグ・ウェーヴに。

ホテル日航というそれなりにグレードの低くないホテルでのランチ。バイキングだとはいえ、ステーキを目の前で焼いてくれるうえに、カニまであるじゃないか。

それにしても、ホテルのランチバイキングというのは、これほどまでに女性たちで溢れたものなのだろうか・・・。2200円が1500円とお安くなっているとはいえ、1500円といえば390円のから揚げ弁当を3個買ってもまだお釣りが来るほどの金額だ。そして彼女たちは夕飯のテーブルでこう言うのだろう。お母さんは少しでいいからみんなたくさんお食べ、と。

それは別にいいのだが、子どもたちが残した朝食のサンドイッチや適当につくったパスタが普段の昼食である僕には、その光景が遠い異郷の出来事のように思えた。

まずサラダから食べる自分に一抹の老いを感じながらも、ほぼ料理を一巡し、カレーも二杯食べたところで隣のテーブルが気になった。

そこには中学生ぐらいの男の子と、その子のお母さんであろう女性が座っていた。お父さんは来ていなかった。きっと職場で380円のから揚げ弁当を食べているのだろう。男の子は手入れが行き届いた清潔で育ちの良い雰囲気が一目で見て取れた。手入れが行き届いた清潔さと書いたが、彼のそれはひ弱さとは違う種類のもので、何らかの競争の中を生きてきたことによる老成とは違うが、頭の良い人間に会った時に感じる、ある種の静謐さが感じられた。

彼の紺のポロシャツの紺色は限りなく澄み切って深くて、一緒に洗濯機でティッシュを洗ってしまったときに出る紙くずがところどころ付いた僕のポロシャツとは大違いだった。

二人の会話から、その子は明日鹿児島に発ち、学校の寮に入るらしい。鹿児島で寮生活する学校といえばラサールぐらいしか思いつかないが、この予想もそれほど外れてはいない気がする。

それよりも気になるのは母親らしき女性のほうで、身なりもきちんとしていて、たしかにこういう男の子の親だろうなという気がする女性だった。妻と二人で「乗ってる車はアウディ。しかも紺」とか「そしてダンナがベンツ」と勝手な想像を膨らませていた。しかし気になっていたのは、男の子との接し方がキャピキャピしているというか、もちろん、上で書いた予想が当たっていたら親として嬉しいのはわかるが、男の子の母親が男の子に対して「キャピキャピしてる・・・」というその光景が、気になってしょうがなかった。

男の子のほうはちょっと勘弁してくれよ、といった感じが見えなくもなかったが、そこは母親の気持ちを汲んでか「はいはい。わかった。わかったよ」と大人な対応をしているところは偉いなと思った。

世の中いろんな人がいるなぁと思って会計にいくと「お二人で4400円です。」と言われた。えっ?一人1500円じゃ?と思ったが、チラシを良く見ると1500円と書かれたところの下に(当日11:30までにご予約のお客様のみ)と小さく書いてあった。まぁ、美味しかったからよしとするか・・・。すっかりのまれたぜ、都会の荒波という名のビッグ・ウェーヴに。