如何にしてスーさんは凶暴となったか

スーさんの若い頃から凶暴だった。
ときどきそういう猫はいるが、よく咬む猫だった。

初めて妻の実家を訪れたときも、妻はスーさんに咬まれた。猛烈に咬まれていた。血がダラダラ流れていてた。ズボンが破けるほど(実際に破けていた)咬まれていた。
スーさんもその頃はもう5、6歳、人間の年齢に換算してもけっこう良い大人だったはずだが、咬んでいた。
僕も手を狙われたが、その時もスーさんは遠くの位置で僕の手に狙いを定めてつつ、ギューッと身体を縮めて、後ろ足でタイミングを計って(そのときお尻がフリフリ動く)、イッキにダッシュしてきた。
そういう行動自体はわかりやすかったのでその時は咬まれることはなかったが、妻や義母、義父たちは何の前触れも無く近づいてきたスーさんにいきなり咬まれていた。
僕は幸いにして、何度か危ない時もあったが、一度もスーさんに咬まれることはなかった。それがラッキーなことかどうかわからないが、きっとラッキーなのだろう。


なぜ咬むのか?なぜスーさんは咬むことに自らのアイデンティティを見出したのか?
おそらくその答えは誰にも分らないだろうし、きっと本人にすら分らないだろう。
でも、スーさんが抱える何らかのトラウマがスーさんをそのような行動に駆り立てていたのかもしれない。
スーさんはそのヘンな顔と気性の荒さゆえに前の飼い主から捨てられたのだというのが我々の間の想像的共通認識だった。スーさんの咬みグセはほとんど彼の一生を通じて彼を支配した。


実はスーさんは捨てられたというトラウマを一生抱えて生きていた悲しい猫だったのかもしれない。
もちらん実際のところは謎だ。
だが、猫という存在は人間にとってあまりにも謎に満ち過ぎている。

やっぱりヘンな顔のスーさん。