また片付けしながら、出てきた本を立ち読み。今日は赤瀬川原平の『ちょっと映画にいってきます』(キネマ旬報社、1990年)だ。
1983年からの連載を集めたものらしいが、この本にトマソン&ハイ・レッド・センターならではの鋭い映画評論を期待すると大ケガをする。

・・・まぁ、ある意味ではトマソン的なものではあるのだが、中でも度肝を抜かれたのは「風の谷のナウシカ」の章だ。けっきょくのところ、引越しに忙しくて観に行くことができず、しかも引越しの途中、自転車をもって行くのを忘れそうになったとか、下駄箱を置いていかなければならなかったということが語られているのみだ。

「おっかしいね自転車って。僕の引越しのときも忘れてさ、最後に積み残されちゃって、往生したんですよ」
と言う。私もそれを聞いておかしくなった。
「何でかね、自転車って」
「何でですかねえ。自転車は車輪があって自分でも動くんだから、トラックに乗せなくてもいいような気になってるんですかねえ」
「なるほど、そんな感じもあるわなあ。無意識のうちに、動くんだから、乗せるまでもない」
「そうそう、乗せるまでもない」(『ちょっと映画にいってきます』p.33)

他の映画(映画ではなく巨人大洋戦を観に行った話もある)についても同様なのだが、映画評にありがちな煽り気味のベタ褒めあるいはダメ出しとは無縁な距離感に読みながらハッとさせられる。映画について何か偉そうな、難しいことを行ってやろうというような青い虚栄心が恥ずかしくなるような、そんな一流の芸を見せられた気がした。