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夜になって風呂に行こうと家を出ると金木犀と隣家の煮物の匂いが夜の冷たい空気と混ざって、秋が来たことを感じずにはいられない今日この頃、そのような金木犀の精に惑わされたか昨夜書いた日記がボタン操作ミスですべて消えてしまい、昨夜はそのまま不貞寝と相成った始末であるが、一夜明けて気を取り直していままた同じ内容を書きなおそうとしていると、疲労感にも脱力感にも似た不思議な感覚に襲われつつも、一度過ぎ去った過去をもう一度辿りなおしているような不思議な気持ちにもなってきて、ああ、時間とは未来へ向かうだけでなく過去へも動いていくものなのだなとひとつクシャミをする。
この数日、咳と熱で体調を崩した妻と、すこし咳コンコンだけどすこぶる元気なぼっちゃんのために生姜入り鳥団子うどん鍋、水餃子とニラとうどん鍋、鶏肉と玉葱のトマトソース煮オン・ザ・ライスなどを作り続けた気がするが、あまり記憶がない。ずいぶん生姜とうどんを調理した気がする。
妻の体調もずいぶんよくなり(すこし咳はでるが)、一安心。
寝込む妻と甘えん坊将軍化したぼっちゃんとで、こちらもすこしフラフラになったが、それにしても散歩で町を彷徨いすぎて(朝と夕で2時間以上歩いてであろう)、家に帰ってガクッとぼっちゃんならぬ僕が眠りにおちてしまうこともあった。
でも一度、家に帰りつくとぼっちゃんがベビーカーでお眠りあさばされていたことがあった。
長い散歩につき合わせてすまぬ。
先日、一晩で一気に梨木香歩の『丹生都比売(におつひめ)』を読了。
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丹生都比売とは、ときに不老長寿の神薬であり猛毒でもある水銀を司る神である。
水銀という金属とも水ともとくわからないような存在のイメージと、草壁親王の繊細さ、その母(後の持統天皇)の冷ややかな哀しさなどが印象深い。
古代もの、ということで梨木香歩っぽくないなと思っていたが、永い時間を経て積み重なった重たく冷たい水の層、それでいてすべてを包み込む羊水のような命のイメージはやっぱりこの作者独特のものだなと思った。
さっそく次に一緒に図書館で借りた『沼地のある森を抜けて』を読む。まだ読んでいる途中だが、先に読了した妻によるとかなり面白かったらしい。この作品は「ぬか床」の話らしい。妻曰く「村上春樹風に言うと『世界の終りとぬか床ワンダーランド』」ということだが、確かに、読み始めると止まらなくなる。
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そしてやっぱり先日読了して深く感銘をうけたのが堀江敏幸の『いつか王子駅で』という作品。
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古本好き、あるいは僕のように新しいものを追いかけていくのが億劫というか、なんだか疲れてしまうような人間にとってはほんとうに暖かで、ずっと読み返したくなるような作品のように思えた。かといってベタベタしたノスタルジーというのとは無縁で、ほの暗いような、ほの明るいような清明な文体が心地良い。
この本を読む直前に読んだのが鷲田清一の『待つということ』だったからであろうか、つぎのような文章が目に留まった。
たとえば乗合バスあが信号待ちでの発進をスムーズに行うべくエンジンを低速で空転させたままにしておくアイドリングは、完全に停止した場合よりも多くのエネルギーを必要としている。しかし間近な出発を控えて消費されているこの待機状態よりも、実は完全静止に耐え抜く精神的エネルギーのそれのほうがはるかに高いのだ。なんの役にも立たない拱手とは無縁の待機を「待つこと」の本質だとすれば、それこそが無為の極みなのであって、同じ静止状態でも「待機」と「待つこと」の内実には天と地ほどの開きがある。(p.85-86)
競馬の思い出話など、すこしわからないものもあるが、作中、『スーホの白い馬』の記憶がよみがえる場面には嗚呼と、読んでるこちらまであの長方形の絵本を思い出してしまった。
タイトルの『いつか王子駅で』とは『いつか王子様が(SOMEDAY MY PRINCE Will COME)』をもじったものだろうか。
そんなどうでもいいことを思いつつ、その曲が入ったCDを探して聴く。
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