ふと思い出したのだが、サラリーマンをやっていた頃、どういう理由だったか二日続けて早く帰れたことがあった。たぶん、午前中で仕事が終わって、帰る途中、チェーン店のカレー屋で昼食をとって、それから家に帰った。二日とも同じ店に入って、たぶん同じものを頼んだと思う。たしか、注文をとりに来たバイトの女の子も同じだったと思う。

二日目、バイトの女の子に注文を告げ、水を飲みながら本を読んでいると、カウンターの中から声が聞こえた。

「あのひと、昨日も来たよ」
「しかも、注文も同じ」

それを聞いて僕は「あ、同じ店に二日続けてきて、しかも同じものを頼むって、おかしいことなんだ」と思った。いろいろ店を迷ったり、注文を迷ったりしなくていいから合理的な行動だと思っていたけれど、年端もいかない女の子にとってはかなり可笑しなことだったのかもしれない。僕は出てきたカレー(トッピングはコロッケだったと思う)を、そ知らぬ顔で平らげ、勘定をすませて店を出た。

それ以後、そんなに早く帰ることもなくなって、もうその店に入ることはなかった。チャンスはあったかもしれないが、そのときは特にカレーが食べたいとは思わなかった。別に「また来た!」と言われるのが怖かったわけではない。